2017年5月8日月曜日

妊婦ペインティング

写真家は画家の友だちに誘われ、
妊婦ペインティングの仕事の見学に行った。
ボディペインティングは食っていけるぞ、という話であった。
形の残らない芸術は好きである。
写真家はカメラをつかみ、新たなジャンルへの第一歩を踏み出した。















が、第一歩を踏み出してから、
写真家はその足をそっと引っ込めた。
どうも気に入らん。
なぜかはわからないけれど。
そういうことは、あるのである。


2017年5月7日日曜日

一時帰還

紆余曲折があり、
写真家はオランダに戻ってきた。
家に帰ると、二匹の猫がいた。














あれほどの喜劇があり、
あれほどの悲劇があり、
そして今も胸の中に嵐を抱えているのに、
猫たちには何の変りもなかった。
日々順調である。

2017年4月29日土曜日

鉄盆栽

バレンシアに流れ着く前に、
植村写真家がいたのはマヨルカである。
マヨルカを旅立つ時、
芸術家の友人が盆栽をくれた。














友人らしいしみじみとした情緒にあふれた、
美しく繊細なその作品は、
隅々までで出来ていた。

友情とは重い。
重すぎやしないかい?
バッグパックに鉄の重り盆栽を入れて、
5階にある新しい部屋へ階段をあがりながら、
植村氏はそんなことを思っていた。

2017年4月28日金曜日

塩服

ある日植村写真家は海岸へ行った。
スペインの海はすでに暖かく、泳ぐことが出来た。














植村写真家は水着を持っていない。
そして浜にはシャワーもない。
帰りの電車の中で植村氏の服は少し悲しい味がしたが、
海の記憶が呑み込んでくれた。

2017年4月27日木曜日

美しい修理工場


ある時植村氏は町で修理工場を見かけた。














広々とした高い天井、
汚いが整理整頓の行き届いた空間に、
植村写真家は魅了された。
この空間が撮りたい、
ここで働きたい、
もしこの場所にいることが出来たら、
自分のここでの生活は一変するのではないか。
と植村写真家は夢見たが、
その夢が現実になることはなかった。
まあなに、ちょっと夢見てみただけである。

2017年4月26日水曜日

慣れ

現在植村写真家の仮住まいにはインターネットがない。
だから彼女は図書館でちらっとメールの類をチェックする。
そして洗濯機もない。
彼女は手で洗う。
しかし、慣れとは恐ろしいものである。
慣れたといえば慣れた。
人はなりたいものになれる。
しかしこの「なれる」は「慣れる」という漢字で良かったっけ?
段々日本語がわからなくなる写真家なのであった。


2017年4月25日火曜日

オレンジ労働

植村写真家はオレンジを運ぶ肉体労働に従事していた。
重たいオレンジのバケツは永遠に続き、
手は傷だらけ、
足も傷だらけ。
それでもこのカラフルな仕事を映像化する構想によって、
植村写真家は幸福だった。



















しかし、ビデオ作品は完成しなかった。
長いキャリアがあるのだから、植村写真家にはわかっている。
撮れない事情がある。
撮られたくない人がいる。
それは、こちら側の「撮りたい」という気持ちとは無関係で、
だからあきらめるしかないのだと。
しかし、そうはいっても、
オレンジが目に沁みるこの頃である。